ある寒い朝に



 寒い寒い寒い寒い。
布団の下で木村は必死に手足を縮めていた。あまりの寒さに眠った頭は半ば覚醒しかけている。懸命に暖を取ろうと するのだが、丸まっても丸まっても背中から肩からスースーして少しも温度が上がらない。

 そうこうしている間に、木村は完全に目が覚めてしまった。
おかしいなオレの部屋ってこんな寒かったっけ?布団を掛け直そうと重い瞼と上体を持ち上げる。

そこで木村は納得した。なるほど寒いわけである。木村の布団は隣に寝る男に半分以上引っ張られている上に 木村は素っ裸だった。そもそもここは木村の部屋ではない。世界王者、鷹村守の住むボロアパートの一室だ。

「さみぃ」

 言えば言うほど寒くなるのはわかっているのだが言わずにはいられない。木村は己の両腕を擦りがたがたと 身を震わせた。雪でも降ってるんじゃないかと思ったがカーテンの閉められた窓からは外の様子は伺えない。 傍に行って開けてみるなんてのは以ての外だ。部屋が無駄に暗いことだけ確認して木村はまた布団に潜り込もうと した。しかし先程の木村と同じように丸まった鷹村が布団をぎゅうと巻き込んでいて引いても引いても木村の ところに布がこない。

 やべぇこのままじゃマジ凍え死ぬ。

「鷹村さん。鷹村さんってば」

 命の危険を感じた木村は鷹村を揺すり出す。だが昨日やたら頑張っていたためかまだ起床時間でないためか 鷹村は唸るばかりで目すら開かない。木村は一旦諦めていそいそと散らかった服に身体を突っ込んだ。 だが一晩放置され冷え切ったそれは逆に体温を奪い、木村はほとんど半泣きで鷹村の身体を蹴飛ばした。 畜生起きやがれ殺す気かこのやろう。

 途端、それまでびくともしなかった鷹村がむくっと身体を起こした。寝起きのせいだろうが目が据わっている。 木村はびびった。マジでびびった。実に情けないが鷹村相手では仕方あるまい。うわすんません足滑っちゃって アハハとか何とか言いつつ慌てて距離を取ろうとする。だがすぐに腕をむんずと掴まれ引き寄せられた。

 うわ。思わず目を瞑るとそのまま抱きすくめられた。
耳元で鷹村の低い声が響く。寝起きで掠れていた。

「さみぃからも少し寝てろ」

じんわりと高い体温が伝わってきてふにゃりと力が抜ける。木村を抱っこしたまま鷹村は横になって片手で 布団を掛け直した。客観的に見たら実にむさ苦しい上に恥ずかしい格好なのだが、布団と鷹村との体温とで 温かくなってきた身体はそれに逆らえない。それどころか恐ろしくシアワセな気分になってくる。なので 木村も素直に鷹村の胸辺りに頭を押し付けて小さくなってみたりするのだった。

 とろとろと蕩けるような思考が再び夢を見始める。






2005/12/13の日記より