ピーッという電子音は聞き飽きた。 続いて流れ出てくる女共の甲高い喚き声も。 今度いつ会えるという甘い問いには、内心で一回ヤッたくらいで彼女面してんじゃねぇと返し、 何かしただろだの責任取れだのという苦情の電話は、聞かなかったことにして削除する。 要するに全部無視だ。 留守電なんて付けるんじゃなかった。番号なんて教えなければよかった。 どの行動も、それを行った当初は自分なりに正しい判断だと満足しているものだ。 面倒はいつだって後から付いてくる。 「面倒臭ぇなぁ」 誰にともなく呟いて鷹村は息をついた。溜息だったかもしれない。 相変わらず物の散乱した部屋が、窓から差し込む夕日に橙へと染められていく。 もっと楽な関係が欲しい。 深入りのいらない、浅くて手軽で快い関係。 恋人なんて甘い響きじゃない。セックスだけでいい。互いの欲望を慰め合うだけの。身体だけの。 冷めた相手が。割り切った関係が。得るものもない代わりに失うものもない。そんな。 鷹村さん、と聞こえた気がした。続いて戸を叩く音。 心なし重く感じる身体をのそりと持ち上げて、鷹村はそちらへと向かった。 声は変わらず鷹村の名を呼んでいる。聞き慣れたその声に、勝手に開けりゃいいのにと小さく 舌打ちする。 「何だよ?」 言いながら戸を開けると、予想通り、そこに立っていたのは木村だった。 纏わり付く夏の熱気に額に汗を滲ませて、片手に持っていたビニルの袋を掲げて見せる。 「この間借りたビデオ、返しにきました」 「わざわざ持ってきたのかよ?ジムでいいじゃねぇか」 「いや、せっかくだから飲みに誘おうと思って」 何がせっかくだからなのか意味がわからない。 大体いつもは青木辺りと飲んでいるんじゃないかと考え、そこで思い当たって鷹村は思わず にやっとした。 「さてはフラれたな?女に」 「っ、放っておいて下さいよ!」 噛み付きそうな勢いで喚いた木村は、だがすぐに項垂れて溜息をついた。 その様子を見て遠慮なく鷹村は笑い、わざとらしく肩を叩いて慰めてやる。 「それじゃ女いる青木になんか言えねえよなぁ。安心しろ、黙っておいてやるからよ」 「…どうだか」 「まあ上がれって。出るの面倒だからな、オレ様の部屋でいいだろ?」 「酒あるんスか?」 眉を顰めて尋ねる木村に、鷹村はあるわけないだろと言い切った。 「キサマに付き合ってやるんだからな。自分で買ってこい」 赤い橙と淡い水色が混ざり合う、すっかり夏の空の下。 畜生と半ば泣いたような声でぼやきつつ踵を返した木村を、鷹村はドアの前で笑って見送った。 |
ちょっと掘り出してみた…!恥。 いつ書いたのかなんて覚えてないけど、おそらく冬に書いたものだと思われ。 今夏っぽい描写になってるとこに、冬な情景が入っていたのですヨ!でも季節外れに なっちゃうからね。書き直してみマシタ。 当然続かないとオチてないからアレなんですが、コレ途中で厭きたらしく完結してな…! だからこれから先UP出来るかはわからんです。ネタ求む。笑。 |